- N値計算ってどういう意味?
- 地盤のN値とは違うの?
- 公式のA1・B1って何のこと?
- どうやって計算するの?
- 計算結果からどの金物を選べばいい?
- 壁量計算とどう繋がってるの?
上記の様な悩みを解決します。
「N値計算」と検索すると、地盤の標準貫入試験のN値と混同して訳が分からなくなる方が多いです。木造住宅で出てくるN値計算は、柱頭・柱脚の接合部にかかる引抜力を計算する方法で、まったく別物。平成12年建設省告示1460号で定められ、簡易な構造設計(仕様規定ルート)で必須の計算です。本記事では公式から金物選定まで、現場で迷わないレベルに整理しておきます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
N値計算(木造)とは?
N値計算とは、結論「木造軸組工法の柱頭・柱脚の接合部に必要な引抜耐力(金物の必要強度)を求める計算」のことです。
英語訳は決まっていませんが、「N value calculation for column joints」と表現されます。平成12年建設省告示第1460号で定められた計算方法で、簡易な構造設計ルート(仕様規定ルート)で建てる木造住宅では、4号建築物でも実質的に義務化されている計算です。
なぜ必要か
地震・風圧で建物が水平方向に揺れたとき、
- 耐力壁が水平力を受け止める
- その反力が柱を介して土台・基礎に伝わる
- このとき、柱の根元(柱脚)と頭(柱頭)には引抜力がかかる
- 引抜力が大きいと、柱が抜けてしまう
これを防ぐために、柱頭柱脚の接合部に金物を入れて引抜きを抑えるのがN値計算の目的です。
阪神大震災(1995年)の教訓
実は、この計算は阪神大震災の被害分析から導入されました。
- 1995年の阪神大震災で、柱が土台から抜けて倒壊する被害が多発
- 従来の「羽子板ボルト」程度では引抜きを止められないと判明
- 2000年(平成12年)に基準法・告示が改正され、N値計算とホールダウン金物が事実上の標準に
「柱を抜けにくくする」ための、地震被害から学んだ計算と覚えておくと記憶に残ります。
地盤の「N値」と混同しないこと
- 地盤のN値:標準貫入試験(SPT)で得られる土の硬さ。1m打ち込むのに必要な打撃回数
- 木造の N値計算:木造接合部の引抜力を求める計算
字面は同じ「N値」ですが、まったく別物。木造の構造図書で「N値」と書かれていれば接合部の話、地盤調査書で「N値」と書かれていれば地盤の話、と整理してください。
地盤のN値はこちらで整理しています。


公式の意味
平12建告1460号で定められたN値計算の基本式は以下の通りです。
公式(出隅以外の柱)
N = A₁ × B₁ + A₂ × B₂ − L
- N:必要引抜耐力(kN相当の係数値)
- A₁:当該柱の左右いずれかの耐力壁の壁倍率の差
- B₁:周辺部材の押さえ効果による低減係数(出隅以外)
- A₂:上階柱の左右の耐力壁の壁倍率の差
- B₂:上階の押さえ効果による低減係数
- L:荷重(鉛直荷重による押さえ効果)の係数
公式(出隅の柱)
出隅では押さえ効果が片側にしかないので、
N = A₁ × B₁ + A₂ × B₂ − L(B₁、B₂、Lの係数値が変わる)
各係数の値(告示の代表値)
| 係数 | 出隅以外 | 出隅 |
|---|---|---|
| B₁ | 0.5 | 0.8 |
| B₂ | 0.5 | 0.8 |
| L | 0.6 | 0.4 |
「出隅は引抜力が大きく、押さえ効果が小さい」のが係数からも読み取れます。
A値の意味(壁倍率の差)
A₁・A₂は「当該柱の左右の耐力壁の壁倍率の差」を取ります。
例:当該柱の左に壁倍率2.5の耐力壁、右に壁倍率1.0の耐力壁があれば、
A₁ = 2.5 − 1.0 = 1.5
「両側で壁倍率が同じなら引抜力はゼロ、片側に偏っていると引抜力が出る」という直感的な関係です。
Nの単位と意味
Nは引抜耐力の係数値で、Nに5.3kNを掛けると概ね必要な引抜耐力(kN)になります。
- N = 1.0 → 約5.3kNの引抜き
- N = 2.0 → 約10.6kNの引抜き
- N = 3.0 → 約15.9kNの引抜き
- N = 5.0 → 約26.5kNの引抜き
この値に応じて、後述するホールダウン金物の規格(HD-B10〜HD-25)を決めるのが流れです。
計算手順(実例で解く)
実例で計算してみます。
例題:2階建て木造住宅、1階の出隅柱
条件:
- 出隅の1階柱
- 当該柱の左隣:耐力壁(壁倍率2.0、筋かい45×90×単方向)
- 当該柱の右隣:壁なし(A₁ = 2.0 − 0 = 2.0)
- 上階(2階)柱の左隣:耐力壁(壁倍率1.5)
- 上階柱の右隣:壁なし(A₂ = 1.5 − 0 = 1.5)
手順1:A₁・A₂を求める
- A₁ = 2.0
- A₂ = 1.5
手順2:係数B₁・B₂・Lを選ぶ
出隅なので、
- B₁ = 0.8
- B₂ = 0.8
- L = 0.4
手順3:N値を計算
N = A₁ × B₁ + A₂ × B₂ − L
= 2.0 × 0.8 + 1.5 × 0.8 − 0.4
= 1.6 + 1.2 − 0.4
= 2.4
手順4:必要引抜耐力に換算
N = 2.4 × 5.3kN ≒ 12.7kN
手順5:金物を選定
12.7kNを満たす金物を、Z金物・公共建築物共通仕様書(公共標準)などから選びます。
- HD-B15(許容引抜耐力15kN)→ 採用OK
「N=2.4 → HD-B15」というのが結論。図面ではHD15などの記号で表記されます。
平屋・最上階の柱の場合
最上階の柱ではA₂、B₂を考慮しないので、
N = A₁ × B₁ − L
になります。簡略化されてA₁の影響が直接出ます。
ホールダウン金物の選定
N値の計算結果から、実際に使う柱頭柱脚金物の規格を決めます。
一般的な金物の種類と耐力
公共標準・Zマーク表示金物の代表値を整理します。
| 金物名 | 規格 | 許容引抜耐力 | 適用N値 |
|---|---|---|---|
| かど金物 CP-T/CP-L | Zマーク CP | 約3.4kN | N ≦ 0.65 |
| 山形プレート VP | Zマーク VP | 約5.1kN | N ≦ 0.96 |
| ホールダウン HD-B5 | Zマーク | 約5.0kN | N ≦ 0.95 |
| ホールダウン HD-B10 | Zマーク | 約10kN | N ≦ 1.9 |
| ホールダウン HD-B15 | Zマーク | 約15kN | N ≦ 2.8 |
| ホールダウン HD-B20 | Zマーク | 約20kN | N ≦ 3.8 |
| ホールダウン HD-B25 | Zマーク | 約25kN | N ≦ 4.7 |
「N値 → 必要引抜耐力 → 金物」の3段階で表を引いていく形です。
一覧表(早見)
告示に添付されている早見表が現場では一番使われます。
| N値 | 必要引抜耐力(kN) | 推奨金物 |
|---|---|---|
| ≦0 | 0 | かど金物・山形プレート |
| ≦1.0 | 5.3 | HD-B5またはHD-B10 |
| ≦1.4 | 7.5 | HD-B10 |
| ≦1.9 | 10 | HD-B10 |
| ≦2.8 | 15 | HD-B15 |
| ≦3.8 | 20 | HD-B20 |
| ≦4.7 | 25 | HD-B25 |
| ≦5.6 | 30 | HD-B25×2など |
「N=2以下なら HD-B10、3未満なら HD-B15」が実務でよく出てくるラインです。
金物の取り付け位置
ホールダウン金物は、
- 柱と土台の引き抜け防止 → HD-B(柱脚側)
- 柱と上階柱の引き抜け防止 → HD-B(柱頭側)
の両方で必要になることが多いです。1本のホールダウンボルトで通しにするか、上下別にするかは納まりで判断します。
金物の取り付け施工
施工時のチェックポイントは、
- アンカーボルトと位置精度(柱の中心からのズレ)
- ボルトの埋込み長さ(基礎側、375mm程度)
- トルク管理(手締め+増し締め)
- 木材の含水率(乾燥が不十分だと締め込み不足になる)
ホールダウン金物の話はこちらでも整理しています。

アンカーボルトはこちら。

金物が複数になるケース
引抜力が大きすぎて1個の金物で足りない場合は、
- HD-B25を2個使う(耐力50kN相当)
- HD-Bxxの2倍タイプ(マニアックなメーカー品)を使う
- 設計を見直して壁倍率の偏りを減らす
実務では、金物のサイズで吸収するより、壁配置を見直して引抜力自体を下げる方が筋が良い場合が多いです。
壁量計算・4分割法との関係
N値計算は単独で出てくるものではなく、壁量計算・4分割法とセットの位置づけです。
仕様規定ルートの3点セット
簡易な構造設計(仕様規定ルート、いわゆる4号建築物・木造2階建て住宅で多用)では、
- 壁量計算:地震・風圧に必要な耐力壁量を確保
- 4分割法(または偏心率計算):耐力壁のバランスを確認
- N値計算:柱頭柱脚の接合部の引抜き耐力を確認
の3点セットが必須。「量・配置・接合」の3観点で安全を担保する考え方です。
壁量計算とN値計算の関係
N値計算の入力値(壁倍率の差)は、壁量計算で並べた耐力壁の壁倍率に依存します。
- 壁量計算で耐力壁を多く配置 → N値が大きくなる柱が出る
- 壁量計算で強い耐力壁(壁倍率5)を片側だけ配置 → 隣の柱でN値が大きくなる
「耐力壁を強くするほど、足元の引抜き力も増える」という構造原理がそのまま式に現れます。
壁量計算はこちらで整理しています。

4分割法との関係
4分割法で耐力壁のバランスを揃えると、N値計算の極端なピークも自然に下がります。A₁ = 壁倍率の差は、両側に同程度の壁があれば小さくなるため。
- バランスが悪い → A₁が大きい → 必要金物が大きくなる
- バランスが良い → A₁が小さい → 金物を小さくできる
つまりN値計算は「壁配置のバランスチェック」としても機能している、と言えます。
4分割法はこちらで整理しています。

許容応力度計算ルートとの違い
許容応力度計算ルート(いわゆるルート1以上)では、
- N値計算は使わず、柱の軸力差を直接構造計算する
- 各柱・各層で個別に接合部設計を行う
- N値計算は簡易ルート専用
許容応力度計算ルートに乗せれば、より精密な接合部設計ができますが、仕様規定ルートで建てる住宅ではN値計算が現実解です。
N値計算(木造)に関する情報まとめ
- N値計算(木造)とは:木造軸組工法の柱頭柱脚接合部の引抜力を求める計算(平12建告1460号)
- 公式:N = A₁ × B₁ + A₂ × B₂ − L
- A値の意味:両側の耐力壁の壁倍率の差。バランスが悪いほど大きい
- N値→引抜耐力:N×5.3kN相当が必要引抜耐力
- ホールダウン金物:CP-T(N≦0.65)、HD-B10(N≦1.9)、HD-B15(N≦2.8)、HD-B25(N≦4.7)
- 地盤のN値とは別物:地盤調査のN値(SPT)と混同しない
- 壁量計算・4分割法とセット:仕様規定ルートの3点セット
以上がN値計算(木造)に関する情報のまとめです。
N値計算は阪神大震災の被害から生まれた、「柱が土台から抜けないようにするための計算」です。式の形は単純ですが、両側の壁倍率の差を読み取れない図面では計算が始まりません。木造住宅の確認申請図書を読むときは、壁量計算→4分割法→N値計算の順で目を通すと、設計者の意図とバランスの良し悪しが見えてきます。施工管理として現場に出るときは、ホールダウン金物の規格・取付位置・トルクの3点を施工図と現物で必ず照合する癖を付けておくと、検査時にひっかかりません。
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