- 残留応力ってなに?
- どうやって発生するの?
- 鉄骨にどんな影響を与えるの?
- どうやって測定するの?
- どうすれば減らせる?
- 現場で気をつけることは?
上記の様な悩みを解決します。
残留応力は溶接後の鉄骨や冷間成形した角形鋼管に「目に見えないまま居座っている応力」のことで、教科書では「内部応力」の一言で済まされがちですが、現場で鉄骨工場の歪み取り作業をしている理由はほぼ全部この残留応力に行き着きます。放っておくと座屈耐力の低下や疲労亀裂の原因になるので、施工管理目線で整理しておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
残留応力とは?
残留応力とは、結論「外力を取り除いた後にも材料の中に残ったままになっている応力」のことです。英語では「residual stress」と書きますね。
弾性域なら荷重を抜けば応力は消える、というのが構造力学の基本ですが、残留応力は「塑性域まで一度入ってしまった部分が、周囲の弾性域に押し戻されて生じる応力」だと考えると腹落ちしやすいです。引張側と圧縮側の応力がバランスして合計はゼロ、けれど局所には確実に応力が存在している、という不思議な状態。鉄骨の溶接部や、冷間成形した角形鋼管の角R部などで顕著に出ます。
- 外力ゼロでも材料内部に存在している
- 引張側と圧縮側がバランスして合計はゼロ
- 製造方法(溶接・冷間加工・熱処理)で生まれる
- 座屈・疲労・寸法精度・靭性に影響を与える
応力そのものの定義はこちらでまとめています。

残留応力の発生原因
残留応力が発生する代表的なメカニズムは大きく4つで、施工管理で扱うのはほぼ「溶接」と「冷間加工」の2つです。
まず溶接による残留応力。溶接ビードは数千度に加熱されて冷却時に大きく収縮しようとしますが、周囲の母材は冷たいままなのでビードの収縮を拘束します。結果、ビード周辺は引張、外側は圧縮、という形で応力が残る、というのが鉄骨溶接部の典型パターンですね。
次に冷間加工(プレス・ロール・曲げ)による残留応力。鋼板を曲げると内側は圧縮、外側は引張で塑性変形し、荷重を抜くと弾性回復が起きるものの塑性変形は戻りません。結果として角部・曲げ部に応力が残ります。冷間成形角形鋼管(コラム)の角Rで顕著、というやつです。
このほか熱処理(焼入れ・焼戻し)では、焼入れ時に表面が先に冷却され内部は遅れて冷却されることで、内外の熱収縮タイミングのズレが応力として残ります。切削・研削でも表層が局部的に塑性変形して応力差が生じますが、表層は圧縮残留応力になるので疲労には有利な方向に働く、というおまけ付きです。
特に鉄骨造では、工場製作時の溶接ビードと、コラムの角R部の残留応力が設計時から織り込み済み、という認識で運用されています。
鉄骨構造での影響
残留応力が鉄骨構造に与える影響で、施工管理として知っておきたいのは座屈・疲労・寸法・靭性の4つです。
- 座屈耐力の低下(特に長柱の弾塑性座屈)
- 疲労強度の低下(溶接ビード止端からの亀裂進展)
- 寸法精度の悪化(溶接で材料が縮む)
- 冷間成形角形鋼管の靭性低下
座屈について言うと、圧縮材は「断面の一部が降伏に達した時点」で崩れ始めるので、残留応力で初期に圧縮側が高い応力を持っていると降伏が早まり、座屈耐力が落ちます。設計座屈曲線でこの分は最初から低減して織り込まれている、というのがミソですね。座屈そのものについてはこちらにまとめています。

疲労については、引張残留応力が乗っている部位は外力サイクルで応力が高い側に偏るため、溶接ビード止端部のような形状不連続なところから亀裂が伸びやすくなります。橋梁などで疲労が厳しい部材では、グラインダーでビード止端を滑らかに仕上げる、というひと手間が入るのはこのためです。
寸法精度の話では、溶接で材料が縮むため組立寸法が設計値からズレます。鉄骨工場では「縮みしろ」を見込んで切断・組立をしますし、大型鉄骨では建て方前にガストーチを使った線状加熱矯正で歪みを取る、という作業が日常的に発生します。
ダイヤフラム・スプライスプレートなど鉄骨ジョイント部材も合わせて押さえておきましょう。


残留応力の測定方法
実建物で残留応力を測ることはあまりありませんが、品質管理の根拠を理解するために知っておくと役立ちます。
- X線回折法(表層数十μm、非破壊)
- ひずみゲージ穿孔法(小穴で開放ひずみ計測、半破壊)
- 切断法(完全破壊、研究向き)
- 中性子回折法(厚板内部まで、大型施設必要)
- 超音波法・磁気法(非破壊、精度はやや劣る)
このうちX線回折法とひずみゲージ穿孔法が比較的実務に近く、後者は試験片に小さな穴をあけて開放されたひずみを計測する半破壊試験。比較的安価で精度もよいので、研究や原因調査でよく使われます。
実建物で残留応力を測定する場面は、研究・原因調査・特殊な構造物の検査くらいで、一般の工事ではまず出てきません。むしろ「残留応力は必ず存在する前提で設計し、製作時に低減処理を入れる」という考え方が現場の実務で、計測そのものよりも「織り込み済み」の感覚を持っておくことが大事ですね。僕としても、この「ゼロにできないものをどう付き合うか」という発想に切り替わると、現場で歪み取り作業を見る目が変わってくるかなと思います。
残留応力の低減方法
工場製作・現場施工で残留応力を減らすための代表的な手法を整理します。
- 応力除去焼鈍(PWHT、550〜650℃で全体加熱)
- 線状加熱矯正(ガストーチで歪み取り)
- ショットピーニング(表層に圧縮残留応力を導入)
- 溶接施工法の改善(溶接順序・予熱後熱・入熱制御)
- 機械的応力解放(軽い荷重で再分配、振動応力解放法など)
応力除去焼鈍は圧力容器や橋梁の主要部材で実施されますが、建築鉄骨では一般に行いません。ショットピーニングは鋼球を高速で表面に当てて表層に圧縮残留応力を導入する手法で、橋梁や自動車部品で多用されますが、建築では出番が少なめ。
施工管理として現場で一番頻繁に出会うのは線状加熱矯正です。ガストーチで線状に加熱して冷却することで、加熱部分の収縮で歪みを直していく職人技。鉄骨工場で日常的に行われていますし、加熱温度は400〜600℃前後をキープして同じ箇所への繰り返し加熱は避ける、というのがルールです。
設計段階での配慮も意外と効きます。拘束の少ない接合形式を選ぶ、開先形状や溶接姿勢を工夫する、板厚を必要以上に厚くしない、といった地味な判断が積み重なって製作時の残留応力を抑えます。
残留応力に関する施工管理の注意点
施工管理者として現場で気をつけるポイントを整理します。
注意点①:溶接順序を勝手に変えない
鉄骨製作要領書では溶接順序が指定されていることが多く、順序を変えると拘束が変わって残留応力が増えてしまいます。現場溶接でも工程を勝手に変えないことが大原則。WPS(溶接施工要領)に従いましょう。
注意点②:入熱量・パス間温度・予熱後熱を管理する
溶接の入熱量が大きすぎると残留応力が増えるので、多層盛りではパス間温度を確認しながら積んでいきます。厚板や低温時は予熱が必要ですし、後熱で水素を逃がして低温割れを防ぐ、という運用が標準。表面温度計で温度を実測してから次のパスに行く、というのが熟練工の動きですね。
注意点③:ビード止端の仕上で疲労を抑える
溶接ビードの止端は形状不連続+引張残留応力で疲労の弱点になりやすい場所です。橋梁や疲労を受ける鉄骨部材では、必要に応じてグラインダーで滑らかに仕上げる、というひと手間が入ります。
注意点④:冷間成形角形鋼管の取り扱い
BCR・BCP材の角R部は冷間加工で硬化+残留応力が乗っているので、構造設計で「冷間成形角形鋼管の靭性低減係数」を考慮しています。現場では角部に局部的な大変形を与えない、補強板を溶接する場合の入熱を管理する、といった配慮が必要ですね。
注意点⑤:検査は応力起因の欠陥を見る
残留応力そのものは測定しませんが、UT(超音波探傷)で内部欠陥を、MT(磁粉探傷)で表層欠陥を確認することで、応力起因の割れを検出します。設計図書で「PWHT指示なし」「冷間成形角形鋼管使用」などをきちんと確認して、仕様外の処理を勝手にしないのも大事です。
残留応力に関する情報まとめ
- 残留応力とは:外力を取り除いても材料内部に残った応力
- 発生原因:溶接/冷間加工/熱処理/切削など
- 影響:座屈耐力低下/疲労強度低下/寸法狂い/靭性低下
- 測定:X線回折法/ひずみゲージ穿孔法など(実建物では稀)
- 低減:PWHT/線状加熱矯正/ショットピーニング/溶接施工改善
- 注意点:溶接順序/入熱管理/予熱後熱/ビード止端処理
以上が残留応力に関する情報のまとめです。
残留応力は「目に見えないけれど確実に存在する応力」で、設計と施工の両面でコントロールが必要なテーマです。鉄骨工場の歪み取りで何をしているのか、設計で冷間成形角形鋼管の靭性低減を入れている理由は何か、を残留応力の視点で説明できるようになると、現場の判断に深みが出てくるはずです。一通り基礎知識は網羅できたかなと思います。
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