- クーロン土圧って、結局なにを求める理論なの?
- ランキン土圧と何がどう違うの?
- 公式が複雑すぎて何を表してるか分からない
- 結局、実務ではどっちを使えばいいの?
- 壁面摩擦角δってなに?なんで大事なの?
- 主働土圧係数Kaって何を意味してる?
- 計算例を具体的な数字で見たい
- なんで土圧の理論が2つもあるの?
- 擁壁や山留めではどっちを使う?
- 1級土木で問われるポイントは?
上記の様な悩みを解決します。
クーロン土圧は、擁壁や山留めの設計で必ず出てくる土圧理論のひとつです。ただ、ネット上の解説は数式の羅列が多く、「結局ランキンと何が違って、現場ではどっちを使えばいいのか」が分からないまま終わりがちです。今回は公式といった基本を押さえた上で、土木に関わる目線で「クーロンの考え方を直感的に」「具体的な数字での計算例」「ランキンとの使い分け早見表」まで踏み込んで整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
クーロン土圧とは?
クーロン土圧とは、結論「擁壁の背面ですべろうとする土の塊(くさび)全体の力のつり合いから、壁にかかる土圧を求める理論」のことです。
1776年にフランスのクーロン(電磁気のクーロンと同一人物)が提唱した、約250年前から使われ続けている古典的な土圧理論です。壁が動くと背面の土に「すべり面」ができて三角形の土塊がずり落ちようとする、その土塊にかかる力の釣り合いを解いて土圧を求めます。
土圧そのものの全体像はこちらが詳しいです。

僕の感覚だと、クーロン土圧は「すべり落ちようとする土の塊を、壁がどれだけの力で押し返せば止められるか」を計算する理論だと捉えると分かりやすいです。難しい数式の前に、まずこの「すべる土塊を支える」というイメージを持っておくと、後の理解が一気に楽になります。
クーロン土圧の考え方と仕組み
ここが本記事の肝です。公式を覚える前に、クーロンが何を考えたのかという仕組みを押さえると、数式の意味が腑に落ちます。
クーロン土圧の考え方は、結論「壁が少し動いたときにすべり落ちようとする三角形の土塊について、3つの力の釣り合いを立てる」というものです。
壁が背面土から離れる方向(主働状態)にわずかに動くと、背面土に直線のすべり面ができ、壁・地表面・すべり面で囲まれた三角形の土塊がずり落ちようとします。この土塊には、次の3つの力が働きます。
| 力 | 中身 |
|---|---|
| 土塊の重量 W | 三角形の自重(単位体積重量 × 面積) |
| すべり面の反力 R | すべり面の摩擦抵抗(内部摩擦角φで決まる) |
| 壁が押し返す土圧 P | 壁面摩擦角δだけ傾いて作用する |
この3つの力が釣り合う条件を、壁の傾き・地表面の傾斜・すべり面の角度・内部摩擦角・壁面摩擦角を使って式にします。ポイントは、すべり面の角度をいろいろ変えると土圧Pが変わるので、Pが最大になる角度(最も危険なすべり面)を探す、という点です。この「最大の土圧」を設計に使います。
補足すると、このすべり面の角度は内部摩擦角などで決まり、主働状態では水平面からおおむね 45°+φ/2 付近(内部摩擦角が30°なら60°前後)になります。壁から見て、土がこの角度の面に沿ってずり落ちようとするイメージです。クーロンは「どの角度のすべり面が一番危険か」を計算で探し、その最悪ケースの土圧を設計に採用します。だから安全側の設計になるわけです。
地盤の摩擦特性そのものについては、地盤の基礎知識が参考になります。

実務だと、ここで重要なのが壁面摩擦角δを考慮できることです。実際の擁壁では、壁と土の間に摩擦が働いて土を上向きに支える効果があり、これを見込めるクーロンの方が現実に近い土圧を出せます。後述するランキンとの差は、まさにこの摩擦をどう扱うかにあります。
クーロン土圧の公式
考え方が分かったところで、公式を見ていきましょう。複雑に見えますが、各記号が何を表すかを押さえれば怖くありません。
主働土圧の合力は、次の式で表されます。
PA = 1/2 × γ × H² × KA
ここで γ は土の単位体積重量、H は壁の高さ、KA が主働土圧係数です。この「1/2・γ・H²」の部分は土圧の基本形で、ランキンでも共通です。クーロンの特徴は、土圧係数 KA の中身にあります。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| γ | 土の単位体積重量(kN/m³) |
| H | 壁の高さ(m) |
| KA | 主働土圧係数(壁や土の条件で決まる無次元の値) |
| φ | 土の内部摩擦角 |
| δ | 壁面摩擦角 |
| α | 壁背面の鉛直からの傾き |
| β | 背面地表面の傾斜 |
KA は φ・δ・α・β の4つで決まります。壁が垂直(α=0)、背面が水平(β=0)、壁面摩擦なし(δ=0)という最もシンプルな条件では、クーロンの式は次の形に簡単化されます。
KA = (1 − sinφ) / (1 + sinφ)
これは実はランキン土圧の主働土圧係数とまったく同じ式です。つまり、条件がシンプルなときはクーロンとランキンは一致し、壁の傾きや摩擦が入ると差が出る、という関係になっています。
僕の整理では、公式そのものを丸暗記する必要はなく、設計実務では条件に応じた係数表や計算ソフトを使うのが普通です。大事なのは「KA は φ・δ・α・β で変わる」という構造を理解しておくことで、ここさえ押さえれば数式に飲まれずに済みます。
クーロン土圧の計算例
「具体的な数字で見たい」という声に応えて、実際に計算してみましょう。数字が入ると、土圧係数や土圧の大きさの感覚がつかめます。
例として、内部摩擦角 φ=30°、単位体積重量 γ=18kN/m³、壁高さ H=4m の擁壁を考えます。
まず、壁が垂直・背面水平・壁面摩擦なしのシンプルな条件では、
KA = (1 − sin30°) / (1 + sin30°) = (1 − 0.5) / (1 + 0.5) = 0.5 / 1.5 ≒ 0.33
となります。これを土圧の式に入れると、
PA = 1/2 × 18 × 4² × 0.33 = 1/2 × 18 × 16 × 0.33 ≒ 47.5kN/m
壁1mあたり約47.5kNの土圧がかかる、と分かります。
次に、壁面摩擦角 δ=15°(φの半分)を考慮すると、クーロンの式では KA が約0.30まで下がります。摩擦を見込むと土圧係数が小さくなる、つまり壁にかかる土圧が少し小さく評価される、というのがクーロンの特徴です。
| 条件 | 主働土圧係数 KA | 土圧 PA(H=4m) |
|---|---|---|
| 壁面摩擦なし(δ=0) | 約0.33 | 約47.5kN/m |
| 壁面摩擦あり(δ=15°) | 約0.30 | 約43kN/m |
なぜ壁面摩擦を見込むと土圧が小さくなるのか、直感的に補足します。壁と土の間に摩擦があると、すべり落ちようとする土塊を壁が上向きに引き止める成分が生まれます。その分、壁を水平に押す力(=設計で効く土圧)が減る、というわけです。逆に言えば、壁面がツルツルで摩擦が期待できない場合は、土圧をδ=0で大きめに見ておくのが安全です。
土圧係数のより詳しい扱いはこちらが参考になります。

現場目線で言えば、壁面摩擦を見込むと土圧が小さく出るぶん、擁壁を経済的に設計できる可能性があります。ただし摩擦を過大に見込むのは危険側になるので、設計では指針に従って適切なδを設定します。数字をいじってみると、各パラメータが土圧にどう効くかが体で分かってきます。
クーロン土圧とランキン土圧の違い
土圧理論の二大巨頭が、クーロンとランキンです。「なぜ2つあるの?」という疑問に答えるには、両者のアプローチの違いを押さえるのが一番です。
| 比較項目 | クーロン土圧 | ランキン土圧 |
|---|---|---|
| 考え方 | すべり土塊全体の力のつり合い | 土中の微小要素の応力状態 |
| 壁面摩擦δ | 考慮できる | 無視(δ=0) |
| 壁の傾きα | 考慮できる | 原則、壁は垂直 |
| 背面の傾斜β | 考慮できる | 考慮できる |
| 適用範囲 | 広い | やや限定的 |
| 計算 | やや複雑 | シンプル |
最大の違いは、アプローチの出発点です。クーロンは「すべろうとする土塊全体」をマクロに見て力の釣り合いを解くのに対し、ランキンは「土中の小さな一点」の応力状態をミクロに見て土圧を導きます。
実用上の差として大きいのが、壁面摩擦δと壁の傾きαを扱えるかどうかです。ランキンは壁が垂直で壁面摩擦を無視するのに対し、クーロンは壁が傾いていても、壁と土の摩擦があっても計算できます。そのぶんクーロンの方が現実の擁壁条件に幅広く対応できる、というわけです。
ランキン土圧の詳しい中身はこちらで解説しています。

僕の考えでは、2つの理論は「優劣」ではなく「視点の違い」です。ミクロの応力で攻めるランキンと、マクロの力の釣り合いで攻めるクーロン。同じシンプル条件なら答えは一致するので、対立するものではなく、状況に応じて使い分ける道具だと捉えるのが正確です。
クーロン土圧とランキン土圧の使い分け
「結局どっちを使えばいいの?」という、もっとも実務的な疑問に答えます。使い分けの目安を早見表にしました。
| 状況 | 向いている理論 |
|---|---|
| 壁が垂直で摩擦を無視したい・概算したい | ランキン土圧 |
| 壁面摩擦を見込みたい | クーロン土圧 |
| 壁背面が傾いている | クーロン土圧 |
| 重力式擁壁・もたれ式擁壁の設計 | クーロン土圧 |
| 片持ち梁式(L型・逆T型)擁壁の概算 | ランキン土圧でも可 |
| 背面形状が複雑 | 試行くさび法(クーロンの拡張) |
ざっくり言うと、壁面摩擦や壁の傾きを反映したい本格的な擁壁設計ではクーロン、壁が垂直で手早く概算したい場面ではランキン、という使い分けが基本です。実際、擁壁・橋台・自立式鋼矢板護岸など多くの構造物でクーロン土圧(やその拡張である試行くさび法)が使われています。
RC擁壁の設計の実際はこちらが参考になります。

実務だと、設計指針(道路土工 擁壁工指針など)が「この構造物にはこの土圧」と定めていることが多く、設計者が毎回自由に選ぶわけではありません。とはいえ、なぜその土圧が指定されているのかを理解しておくと、計算結果の妥当性チェックができるようになります。
クーロン土圧の主働土圧と受働土圧
土圧には主働・受働・静止の3種類があり、クーロン土圧も主働だけでなく受働を扱えます。ここを押さえると土圧の全体像がつながります。
| 種類 | 状態 | 大小関係 |
|---|---|---|
| 主働土圧 | 壁が土から離れる向きに動く | 最小 |
| 静止土圧 | 壁が動かない | 中間 |
| 受働土圧 | 壁が土を押し込む向きに動く | 最大 |
擁壁の背面側で問題になるのが主働土圧で、本記事で計算してきたのもこれです。一方、擁壁の前面(つま先側)や山留めの根入れ部分では、壁が土を押し込む向きに働く受働土圧が抵抗力として効いてきます。
クーロンの考え方は受働側にも適用でき、その場合はすべり面の向きや係数が主働とは変わります。受働土圧は主働よりはるかに大きな値になるのが特徴で、内部摩擦角30°の例では受働土圧係数が主働の何倍にもなります。山留めの根入れ部分がしっかり土に踏ん張れるのは、この大きな受働抵抗のおかげです。
主働・受働の違いの詳細はこちらが詳しいです。

正直なところ、現場で主働と受働を混同すると設計の前提が崩れます。「背面で押してくるのが主働、前面で踏ん張るのが受働」という向きの違いだけは、最初にしっかり頭に入れておきたいポイントです。
クーロン土圧が使われる構造物と試行くさび法
クーロン土圧が実際にどこで使われるのか、そしてその拡張である試行くさび法について触れておきます。
クーロン土圧(およびその拡張)が使われる代表的な構造物は、重力式・もたれ式の擁壁、橋台、自立式鋼矢板護岸、山留め壁などです。背面の土を支える構造物の多くで、クーロン系の土圧が採用されています。
山留め工法での土圧の考え方は、こちらが参考になります。

そして、クーロン土圧を発展させたのが試行くさび法です。クーロンの公式は背面形状がシンプルな場合の解析解ですが、実際の擁壁は背面に上載荷重があったり、地表面が複雑に折れ曲がっていたりします。試行くさび法は、すべり面の角度を少しずつ変えながら繰り返し計算して、土圧が最大になる角度を数値的に探す方法です。
クーロンが数式を微分して最大値を求めたのに対し、試行くさび法はコンピュータで角度を振って最大値を探す、いわば同じことをアナログ的にやる手法です。背面形状が複雑でも対応できるため、実務の擁壁設計では試行くさび法が広く使われています。
僕の感覚だと、クーロン土圧と試行くさび法は「親子」の関係です。クーロンの理論を理解しておけば、試行くさび法が何をやっているかも自然に分かる。土圧理論は、クーロンを軸に据えると全体が見通しよく整理できると思います。
クーロン土圧に関するよくある質問
ここまでで触れきれなかった疑問を、Q&A形式でまとめておきます。
Q. 地震時の土圧はどう考えますか。
A. 地震時は、土塊に水平の地震力(震度)を加えて力の釣り合いを解く「物部・岡部の式」が使われます。これはクーロン土圧を地震時に拡張したもので、考え方の根っこはクーロンと同じです。地震時は土圧が大きくなるため、耐震設計では重要な検討項目になります。
Q. 壁の背面が傾いていたり、地表面が傾斜していても計算できますか。
A. できます。それがクーロン土圧の強みです。壁背面の傾きαと地表面の傾斜βを公式に組み込めるため、垂直壁・水平背面が前提のランキンより幅広い形状に対応できます。
Q. 数式は覚えないとダメですか。
A. 実務では係数表や計算ソフトを使うので、丸暗記は不要です。ただし「土圧係数 KA が φ・δ・α・β で変わる」という構造と、各パラメータが土圧を増減させる向きは理解しておくと、結果の妥当性を判断できます。
Q. 1級土木施工管理技士の試験で問われるポイントは何ですか。
A. クーロンが「すべり土塊の力のつり合い」で、ランキンが「土中要素の応力状態」で土圧を求めること、クーロンは壁面摩擦を考慮できて適用範囲が広いこと、主働・受働・静止の大小関係が頻出です。理論の違いと特徴をセットで押さえましょう。
クーロン土圧に関する情報まとめ
- クーロン土圧とは:すべり土塊全体の力のつり合いから土圧を求める理論
- 考え方:壁が動いてすべろうとする三角形の土塊の、重量・反力・土圧の釣り合いを解く
- 公式:PA=1/2・γ・H²・KA。KA は φ・δ・α・β で決まる
- 計算例:φ=30°なら KA≒0.33、壁面摩擦を見込むと約0.30に下がる
- ランキンとの違い:クーロンは力のつり合い、ランキンは応力状態。クーロンは壁面摩擦・壁の傾きを扱える
- 使い分け:本格的な擁壁設計はクーロン、垂直壁の概算はランキン、複雑形状は試行くさび法
- 主働・受働:背面で押すのが主働、前面で踏ん張るのが受働。受働の方が大きい
- 試行くさび法:クーロンを拡張し、複雑な背面形状に対応する数値計算法
以上がクーロン土圧に関する情報のまとめです。
クーロン土圧は、数式だけ見ると身構えてしまいますが、「すべる土塊を壁がどれだけの力で支えるか」というイメージを持てば、本質はシンプルです。ランキンとの違いと使い分けを押さえれば、擁壁や山留めの設計図を見たときに「なぜこの土圧なのか」が読めるようになります。ランキン土圧や土圧係数の記事も合わせて読むと、土圧理論の全体像がすっきり整理できると思います。

