玉掛けワイヤーは何トン吊れる?径だけで決まらない理由と4分・5分

  • 玉掛けワイヤーって、普通のワイヤーロープと何が違うの?
  • 「5分のワイヤー持ってきて」って言われたけど、何ミリのこと?
  • 12ミリのワイヤーで何トンまでつれる?
  • 2本でつれば、1本の2倍つれると思っていい?
  • つり角度が開くと危ないのは分かるけど、どれくらい変わる?
  • 4本つりは2本つりの2倍?それとも1本の4倍?
  • 素線が何本切れたら使っちゃダメなの?

上記の様な悩みを解決します。

玉掛けワイヤーは、クレーンなどで荷をつり上げるときに使うワイヤロープです。クレーン等安全規則第213条は、事業者に対し、安全係数が6以上でないワイヤロープを玉掛けに使ってはならないと定めています。何トンつれるかは径だけでは決まらず、ロープの種類と、何本で・どのつり角度でつるかで変わるので、メーカーの安全荷重表は前提とセットで読みます。

玉掛けワイヤーの径と荷重は、揚重の段取りを組むたびに確かめる数字です。ところがネットの荷重表は表だけが貼られ、どのロープ・どの安全係数・どんなつり方が前提なのかが書かれていないものが、今回確認した範囲では少なくありませんでした。今回は構造・安全係数・径ごとの早見・使ってはいけない状態といった基本を押さえた上で、今回確認したワイヤー販売店のページでは扱いが少なかった「表の数字がどこから来るか」「張力係数とメーカー表の係数が同じ考え方であること」「4分・5分の説明が資料によって割れていること」「法令とメーカー・教材の基準の違い」まで、施工管理の目線で整理しました。

なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、職長に「この荷なら5分の2本つりで足りる?」と聞かれて、根拠つきで答えたい方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。

それではいってみましょう!

目次

玉掛けワイヤーとは?荷をつるワイヤロープの構造と径の測り方

玉掛けワイヤーとは、結論「クレーン、移動式クレーン又はデリックで荷をつるときに、玉掛用具として使うワイヤロープ」のことです。法令上の呼び方は「玉掛用具であるワイヤロープ」で、クレーン等安全規則のうち第213条(安全係数)・第215条(使ってはいけないワイヤロープ)・第219条(両端の金具とアイ)・第220条(作業開始前の点検)がワイヤロープにかかわる条です。なお第214条はフックとシャックルの安全係数(5以上)を定めた条で、ワイヤロープの条ではありません(クレーン等安全規則 第213条・第214条・第215条・第219条・第220条)。

この記事の「教材」は、厚生労働省の玉掛け技能講習補助教材(日本クレーン協会『玉掛け作業者必携』をもとにした日本語版PDF)を指し、ページはPDF内の表記です。玉掛け作業そのものの流れや点検の進め方は、玉掛けの基本をまとめた記事で整理しています。

台付け用ワイヤーとは使い道が違う

教材は「玉掛け用ワイヤロープは荷をつり上げるために用い,台付け用ワイヤロープは物体を固定物に取り付けたり,荷締めに用いるもの」と分けています(教材 p.42)。ワイヤロープメーカーの東京製綱も、玉掛索は加工するときの差し回数・差し方がクレーン等安全規則219条に規定されている点で台付索と異なるとし、「玉掛索と台付索とは混同されがちですが、明確に区別して取り扱う必要があります」と書いています(東京製綱「玉掛け用」製品ページ)。

素線・ストランド・心綱の3層でできている

教材によると、ワイヤロープは炭素鋼などを冷間加工で伸線した継ぎ目のない素線を数十本より合わせてストランド(子なわ)をつくり、そのストランドをさらにより合わせて作られます。中心には、形を保ち、柔軟性を与え、衝撃や振動を吸収してストランドの切断を防ぐための心綱が入っていて、繊維心やワイヤロープ心などがあります。玉掛け用には、ストランドを6本より合わせた構造のものが多く使われています(教材 p.37)。

カタログや荷札に出てくる「6×24」「6×37」は構成記号で、「ストランドの数×1本のストランドを構成する素線の数」を表します。教材は、同じ径なら素線が細く数の多いロープほど柔軟性があり、扱いやすいと説明しています(教材 p.37)。

より方は「普通Zより」が玉掛けの定番

より方は、ロープとストランドのよりが反対向きの「普通より」と同じ向きの「ラングより」、さらにより方向で「Zより」「Sより」に分かれます。教材は、普通よりはラングよりに比べて摩耗は多いものの、よりが戻りにくくキンクを起こしにくいとして、「玉掛け用としては一般には“普通Zより”のワイヤロープが使われる」と書いています(教材 p.37)。

G種とA種は素線の引張り強さによる区分

G種・A種は、素線の引張り強さによる区分です(教材 p.39)。メーカーのカタログには「めっきG種」「裸A種」と並べて載せているものがあり、DAIKOの6×24カタログでは、径12mmの破断荷重がG種65.9kN(6.72tf)、A種71.0kN(7.24tf)です(DAIKO 6×24 JIS G 3525 カタログ p.7)。荷重表を開いたら、まずどちらの種別の表かを確かめます。

径はノギスで3方向から測って平均をとる

ワイヤロープの径は外接円の直径で呼び、同じ断面で3方向からノギスで測って、その平均値をとります。製造時の径には公称径に対する許容差があり、0〜+7%(径10mm未満は0〜+10%)です(教材 p.38)。

規格は2本あります。JIS G 3525(ワイヤロープ)は建設などに使う一般用ワイヤロープが対象です。アイ部をスリーブで圧着したワイヤロープスリングはJIS B 8817(ワイヤロープスリング)の対象です(JIS G 3525:2013・JIS B 8817:1991 適用範囲/日本規格協会 JSA Webdesk)。東京製綱の安全荷重表はJIS B 8817準拠と見出しに書いています。

玉掛けワイヤーで何トンつれる?径ごとの早見と表の数字の出どころ

玉掛けワイヤーで何トンつれるかは、結論「切断荷重を安全係数6で割った1本・垂直の値に、本数とつり角度の補正をかけて決まる」です。径だけを見て「12mmなら何トン」と覚えると、つり方が変わったときに数字を取り違えます。

第213条の安全係数6は「切断荷重÷かかる荷重の最大の値」

クレーン等安全規則第213条第1項は「事業者は、クレーン、移動式クレーン又はデリックの玉掛用具であるワイヤロープの安全係数については、六以上でなければ使用してはならない。」と定め、第2項で「前項の安全係数は、ワイヤロープの切断荷重の値を、当該ワイヤロープにかかる荷重の最大の値で除した値とする。」としています(クレーン等安全規則 第213条)。

読み替えると、安全係数は「そのワイヤーが切れる荷重が、実際にかかる最大の荷重の何倍あるか」です。分母は荷の重さではなく、ワイヤロープ1本にかかる荷重の最大の値なので、同じ荷でもつり方によって分母が変わります。この点が次の章のつり角度の話につながります。安全率という考え方そのものは、安全率の意味と使いどころを解説した記事で詳しく扱っています。

切断荷重・基本安全荷重・安全荷重の3つを分ける

荷重表を読むときにつまずくのが、似た名前の荷重が3つ出てくるところです。教材の定義を並べると次のとおりです(教材 p.31)。

  • 切断荷重:1本のワイヤロープ等が切断(破断)に至るまでの最大の荷重(単位はkN)
  • 安全係数:切断荷重と、使用するときにかかる最大荷重(力)との比
  • 基本安全荷重(基本使用荷重ともいう):安全係数を考慮して、1本のワイヤロープ等で垂直につることができる最大の荷重
  • 安全荷重(使用荷重ともいう):掛け数とつり角度に応じてつることができる最大の荷重(t)

教材は、安全荷重が玉掛け用具に定格荷重又は使用荷重として表示されているものもあるとしています(教材 p.31)。JIS B 8817では、1本のロープスリングに使用上負荷できる最大荷重を「基本使用荷重」、各種のつり方で負荷できる最大荷重を「使用荷重」、つり本数とつり角度による使用荷重と基本使用荷重との比を「モード係数」と呼びます(JIS B 8817:1991 2. 用語の定義)。呼び名は資料で違っても、中身は同じ2段構えです。

基本安全荷重の式は「基本安全荷重(t)=切断荷重(kN)/(9.8×安全係数)」です(教材 p.31)。DAIKOのカタログにある径12mm・A種の破断荷重71.0kNを入れると、71.0÷(9.8×6)=71.0÷58.8≒1.21tになります(編集部で計算)。

径ごとの早見(東京製綱の安全荷重表)

ここでは東京製綱の安全荷重表を1社分だけ載せます。この表には前提が5つあります。1つ目はJIS規格品の6×24 A種であること、2つ目は安全係数(メーカー表では「安全率」と表記)6で計算していること、3つ目はJIS B 8817(ワイヤロープスリング)規格に準拠し、線材製品協会 技術委員会 ワイヤロープ分科会の監修であること、4つ目は2本つり・4本つりとも荷重が均等にかかる前提で算出していて、均等にかからない場合は表を適用できないこと、5つ目は6×24 A種以外の安全荷重は別途算出することです(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ NO.PR-P-051I 安全荷重表・ご使用上の注意事項)。同カタログは、使うときは製品ラベル等で構成・ロープ径・破断力または種別を確認するよう求めています。

ロープ径(mm) 計算基礎荷重A(1本・垂直)tf 2本つり 垂直 tf 2本つり 60° tf 4本つり 60° tf
6 0.301 0.60 0.51 1.0
8 0.536 1.0 0.91 1.8
9 0.678 1.3 1.1 2.3
10 0.838 1.6 1.4 2.8
12 1.20 2.4 2.0 4.0
14 1.64 3.2 2.7 5.5
16 2.15 4.3 3.6 7.3
18 2.71 5.4 4.6 9.2
20 3.35 6.7 5.6 11.3

表の値は東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ(NO.PR-P-051I)p.7「安全荷重表」のtf値をそのまま転記したもので、kN値と30°の欄は省いています。本文で「何トン」と書くときは、このトン(tf)の値を指します。

表の数字はどこから来ているか

この表の最下行には算出根拠が書かれています。計算基礎荷重Aは「破断力÷安全率6」、2本つり垂直は2A、2本つり30°は2×A×cos15°=1.9A、2本つり60°は2×A×cos30°=1.7A、4本つり30°は4×A×cos15°=3.8A、4本つり60°は4×A×cos30°=3.4Aです(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7)。Aは1本で垂直につるときの値なので、教材の基本安全荷重と同じ位置づけの数字です。

実際に確かめてみます。DAIKOカタログの径12mm・A種の破断荷重71.0kNを6で割ると約11.8kNで、東京製綱の表の12mmのA(11.8kN・1.20tf)と同じ値になります。径16mm・A種も126kN÷6=21.0kNで、表のA(21.0kN・2.15tf)と一致します(編集部で計算。DAIKO 6×24 カタログ p.7/東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7)。つまり早見表は「破断荷重を6で割る→本数を掛ける→つり角度の分だけ割り引く」という3段の計算を、径ごとに先回りして済ませたものです。

1点だけ注意があります。Aに係数を自分で掛けると、表の値と小数点以下がずれる径があります。たとえば12mmは1.20×1.7=2.04ですが、表の2本つり60°は2.0tfです(編集部で計算)。表のほうが端数を落とした値で載っているので、現場では計算値ではなく表の値をそのまま使います。

表が手元に無いときの概略式

教材には、6×24のワイヤロープのおおよその基本安全荷重を出す概略式として「基本安全荷重(t)≒0.008×(ワイヤロープ径)²(ワイヤロープ径はmm)」が載っています(教材 p.39)。径12mmなら0.008×144=1.152で約1.15tとなり、東京製綱の表のA=1.20tfと並べると少し小さめです(編集部で計算)。

ただし、この式は「安全側に出る」ものとして使わないでください。教材は6×24とだけ書いていてG種かA種かを示しておらず、DAIKOの破断荷重から基本安全荷重を出して比べると、概略式の値はA種より約4〜5%小さく、G種より約3%大きくなります(編集部で計算)。G種のロープに概略式の値をそのまま当てると、わずかに過大に見積もることになります。概略式は段取りの当たりをつけるための目安で、使ってよいかの判断はロープの種別に合った表で行う、という線引きが安全です。つり荷の質量そのものを出す手順は、質量の求め方をまとめた記事で整理しています。

2本・4本で吊ると何が変わる?つり角度と張力係数の関係

2本・4本でつると何が変わるかは、結論「本数の分だけつれる重さは増えるが、つり角度が開くほど1本あたりの張力が増え、その分だけ割り引かれる」です。2本つりなら必ず1本の2倍、4本つりなら必ず4倍、とはなりません。

つり角度はロープどうしの開きの角度

教材では、掛け数(ワイヤロープ等の本数)と荷側のつり点の数で「1本2点つり」「2本2点つり」のように呼びます。つり角度は「フックに掛けられた玉掛け用ワイヤロープ等の間の開きの角度」です(教材 p.32)。東京製綱の表の30°・60°もこの開きの角度で、算出根拠ではその半分(15°・30°)のcosを掛けています。一方、JIS B 8817の付属書のモード係数の式では、βを垂直線との角度として扱っています(JIS B 8817:1991 付属書2)。資料によって角度の取り方が違うので、表の見出しの角度がどちらなのかは確かめておきたいところです。

角度が開くと危ない理由は2つある

1つ目は張力です。教材は、2本のワイヤロープで荷をつったとき、荷を支える力は2本の張力F1・F2の合力Fであり、F1・F2はそれぞれF/2より大きい値になると説明しています。つり荷の質量が同じでも、つり角度が大きくなるほど1本に作用する張力は大きくなり、径の大きなワイヤロープを使わなければならなくなります(教材 p.33)。

2つ目は横向きの力です。教材は「ワイヤロープの張力F1,F2の水平分力Pも,つり角度が大きくなるほど大きくなる。この水平分力Pはつり荷には圧縮力として働き,また,ワイヤロープを内側に引き寄せようとする」と書いています(教材 p.33)。角度を開くと、ワイヤーが引っ張られるだけでなく、荷を両側から押しつぶす力も強くなるということです。

ここで第213条第2項を思い出すと、安全係数の分母は「当該ワイヤロープにかかる荷重の最大の値」でした(クレーン等安全規則 第213条第2項)。同じ荷・同じワイヤーでも、角度を開いて1本あたりの張力が増えれば分母が大きくなり、安全係数は小さくなります。表の数字を守っていても、つり角度を表の欄より開いた時点で前提が崩れる、というのはこの理屈です。

張力係数とメーカー表の係数は同じ考え方

教材は、張力係数を「つり角度により1本当たりの玉掛け用ワイヤロープ等に作用する荷重(張力)を計算するための割り増し係数」と定義しています(教材 p.39)。表のいちばん右の列は、教材の張力係数で2を割った値(2本つりで1本・垂直の何倍つれるか)を編集部で計算し、東京製綱の表の算出根拠と並べたものです。

つり角度 張力係数(教材 表3-1) 東京製綱の2本つりの係数 2÷張力係数(編集部で計算)
0° 1.00 2A(垂直) 2.00
30° 1.04 1.9A 約1.92
60° 1.16 1.7A 約1.72
90° 1.41 表に欄なし 約1.42
120° 2.00 表に欄なし 1.00

張力係数の値は教材 p.39 の表3-1、係数は東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7 の算出根拠です。2÷1.04≒1.92が表の1.9A、2÷1.16≒1.72が表の1.7Aに対応していて、教材の張力係数とメーカーの「2×A×cos」は同じことを別の書き方で表しています。120°では張力係数が2.00なので、2本つりでも1本・垂直と同じ重さしかつれない計算になります(編集部で計算)。

教材の式は2通りあります。つれる重さを出すときは「安全荷重=基本安全荷重×(掛け数/張力係数)」(教材 p.38)、必要なワイヤーを選ぶときは「1本当たりのワイヤロープに必要な基本安全荷重=(つり荷の質量/掛け数)×張力係数」(教材 p.35)です。

計算例:3tの荷を2本2点つりにするなら何ミリか

6×24 A種・荷重が均等にかかる前提で、3tの荷を2本2点つりにする場合を考えます。つり角度60°なら、必要な基本安全荷重は(3÷2)×1.16=1.74tです。早見表のAを見ると14mmは1.64tfで足りず、16mmが2.15tfで足ります。16mmの2本つり60°は3.6tfなので、表の側から見ても3tを上回ります(編集部で計算)。

同じ3tを、つり角度120°まで開いてつると、(3÷2)×2.00=3.0tが必要になり、Aが3.0tf以上あるのは表の中では20mm(3.35tf)だけです(編集部で計算)。荷もワイヤーの本数も同じなのに、角度だけで必要な径が16mmから20mmに上がります。現場目線で言えば、「何ミリで足りる?」と聞かれたときに先に確かめるのは、荷の質量・つり角度・ロープの種別の3つで、径はその答えとして最後に決まるものです。

4本つりは1本の4倍にはならない

教材は、4本4点つりの安全荷重は2本2点つりの場合の2倍になるとしつつ、「つり荷の形状や玉掛けワイヤロープの長さの微妙な違いにより4本のロープに荷重が均等に掛かりにくい場合には,3本つりにおけるモード係数を用いる方がより安全である」と書いています(教材 p.41)。JIS B 8817の付属書でも、モード係数は「つり本数2本の場合 2×cosβ」「つり本数3本及び4本の場合 3×cosβ」とされ、4本つりの式は3本つりと同じ形です(JIS B 8817:1991 付属書2 注(1))。

東京製綱の表では4本つり60°が3.4Aで、12mmなら4.0tfと2本つり60°(2.0tf)のちょうど2倍ですが、これは4本に荷重が均等にかかる前提の値です(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7)。メーカーによって4本つりの欄に載せている値が違う場合もあるので、4本つりの値は使うロープのメーカー表と前提書きで確かめてください。3本3点つりについては、教材は、3本の玉掛け用ワイヤロープに均等に荷重がかかる場合、(a/2)の2倍をつり角度として、2本2点つりの安全荷重の表で求めた荷重の1.5倍を3本3点つりの安全荷重としています(教材 p.40)。

「60°以内」は法令ではなくメーカーとJISの注意

「つり角度は60°まで」とよく聞きますが、出どころはメーカーとJISの注意書きです。東京製綱は「つり角度は、出来るだけ60°以内にして下さい」(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ ご使用上の注意事項)、JIS B 8817は規定の一部ではない参考として「つり角度は60°以内が望ましい」としています(JIS B 8817:1991 参考1)。どちらも法令の規定ではありません。

もう1つの60°は、アイ部の開き角度です。東京製綱は「アイ部の開き角度は、60°を超えないようにして下さい。無理に大きなフックやピンを入れると、アルミ合金が割れます。」とし、教材も圧縮止めの玉掛けワイヤロープはアイ部の口の開き角度60°を超えないとしています(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ/教材 p.43)。つり角度とアイ部の開き角度は別の話なので、混ぜないようにします。

1本つりを避ける理由と、曲げによる強度低下

教材は、荷の回転によりよりが戻って抜けることがあるので「原則として1本つりは行ってはならない」としています(教材 p.43)。東京製綱も「一本つりは、玉掛索やつり荷の回転が起こりやすく危険です」と注意し(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ)、JIS B 8817の参考は1本つりをできるだけ避け、やむを得ない場合は荷の回転を防ぐ措置をとるとしています(JIS B 8817:1991 参考1)。荷を手元で誘導する介錯ロープの使い方も、あわせて確認しておくと段取りが組みやすくなります。

つり角度と並んで見落としやすいのが、フックやシャックルでの曲げです。教材は、フックやシャックルなどの径とワイヤロープの径の比(D/d)によっても安全荷重が減少するとし、日本鋼索工業会の参考値として、6×24ではD/dが1で50%、5で30%、10で25%、20で10%低下すると示しています(教材 p.41)。東京製綱も「6×24のロープで、ロープ径と同じ大きさに曲げると、強度は50%低下します」と書いています(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ)。教材は、実際に作業する上ではこれも踏まえて選定する必要があるとしています。

ワイヤーの長さとつり角度の関係

長さの選び方について、今回確認した教材とメーカーカタログには推奨値や早見は載っていません。言えるのは、荷側のつり点の間隔が同じなら、ワイヤーが短いほどつり角度は大きくなる(図形上そうなる)ということです。長さに余裕のないワイヤーを選ぶと、角度が開いて上の表の割り引きが大きくなります。長さはつり点の間隔と、つり角度をどこに収めたいかから逆算して選ぶもの、と考えると整理しやすいです。

4分・5分は何ミリ?現場の呼び方と資料による説明の違い

4分・5分が何ミリかは、結論「現場の呼び方では、4分は12mm、5分は16mm」です。太陽精機が運営する安全啓発サイト「もえろ!タマカケ魂」は、ワイヤロープで「5分」というのは一般的に径16mmのワイヤロープを指すとし、ほかの呼び方も挙げています(太陽精機「もえろ!タマカケ魂」よくある悩み)。

  • 3分:9mm
  • 4分:12mm
  • 5分:16mm
  • 6分:18mm

早見表と結びつけると、4分(12mm)の2本つり60°は2.0tf、5分(16mm)の2本つり60°は3.6tfです(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7。6×24 A種・安全率6・荷重が均等にかかる前提)。

「分」の説明は資料によって割れている

呼び方の数値は一致していても、「分」が何の単位なのかの説明は資料で割れています。太陽精機の別のページは、分を尺貫法の単位として、1分を1寸の10分の1の約3mmと説明しています(太陽精機「もえろ!タマカケ魂」よくある悩み)。一方、吊具通販の道具屋.comは「分(ぶ)で表記するのはインチのみとなります」とし、1インチより小さい単位を8分の1で区切って分子を「分」と呼ぶと説明したうえで、1/8=1分=約3mmから7/8=7分=約22mmまでを表にしています。同じページには「ミリと分に互換性はありません」とも書かれています(道具屋.com「ワイヤロープの線径を表す単位」)。

説明の仕方は違っても、どちらの資料も挙げている実用値は3分=9mm、4分=12mm、5分=16mmで同じです。また、今回確認した範囲(厚生労働省の玉掛け技能講習補助教材の全ページ、東京製綱の総合カタログ第17章とトヨロック玉掛索カタログ、神鋼鋼線のワイヤロープ規格表)には、「4分」「5分」といった径の呼び方の記載は見つかりませんでした。今回確認した範囲では公的な資料に定義が見つからなかったので、ここでは「分」を現場の呼び慣わしとして扱います。

太陽精機も「通常はワイヤ径(○○mm)の指示で通じます」としています(太陽精機「もえろ!タマカケ魂」よくある悩み)。僕は、口頭では「5分」と呼んでも、発注書や点検の記録にはmmで書いておくほうが、取り違えが起きにくいと考えています。

使ってはいけない玉掛けワイヤー|第215条の不適格とアイの加工

使ってはいけない玉掛けワイヤーは、結論「クレーン等安全規則第215条の一〜四号のどれかに当たるもの」です。第215条は「事業者は、次の各号のいずれかに該当するワイヤロープをクレーン、移動式クレーン又はデリツクの玉掛用具として使用してはならない。」と定めています(クレーン等安全規則 第215条)。メーカーや教材の基準とは出どころを分けて並べます。

項目 法令(クレーン等安全規則 第215条) JIS・教材の基準(法令とは別)
素線の切断 一号:ワイヤロープ一よりの間において素線(フイラ線を除く)の数の10%以上の素線が切断しているもの JIS B 8817(東京製綱カタログ掲載):1よりの間で最外層ストランド中の総素線数の10%以上、又は5より間で20%以上断線。教材:アイ部は1よりの間で素線(フィラ線を除く)の数の5%以上切断(参考:玉掛け作業の安全に係るガイドラインの解説)
径の減少 二号:直径の減少が公称径の7%をこえるもの JIS B 8817(同上):摩耗によって直径の減少が公称径の7%を超えるもの
キンク 三号:キンクしたもの 教材:曲がり直しをして使用しない
形くずれ・腐食 四号:著しい形くずれ又は腐食があるもの 教材:アイ部の著しい変形又は端末止め部(アイスプライスのあみ込み部、圧縮止めの金具部等)に異常があるもの

右の欄の出典は東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.6 と教材 p.60 です。

同じ「10%」でも数える素線が違う

素線切断の基準は、法令もJISも「1よりの間で10%」なので同じに見えますが、分母が違います。第215条一号は「素線(フイラ線を除く)の数」、東京製綱が載せるJIS B 8817の基準は「最外層ストランド中の総素線数」で、さらにJISには「5より間で20%以上」という別の物差しもあります。教材のアイ部5%は、教材自身が「参考:玉掛け作業の安全に係るガイドラインの解説」と添えている値で、第215条の条文にはありません。

JISと法令の関係は、JIS B 8817の本文に「クレーンなどに使用する場合には,上記にかかわらず“労働安全衛生法令”によらなければならない。」とあります(JIS B 8817:1991 4.4)。クレーンの玉掛けでは法令の4つが最低線で、JISや教材の基準はその上に重ねて見るもの、という関係です。教材も、素線の切断や直径の減少が進んでいるものは基準に達する前に早めに交換するのが望ましいとしています(教材 p.60)。

アイの加工は第219条で決まっている

第219条第1項は、エンドレスでないワイヤロープ又はつりチエーンについて、両端にフック、シャックル、リング又はアイを備えているものでなければ玉掛用具として使ってはならないとしています。第2項は、そのアイを「アイスプライス若しくは圧縮どめ又はこれらと同等以上の強さを保持する方法」によるものとし、アイスプライスの編み込み回数まで定めています(クレーン等安全規則 第219条)。東京製綱が台付索との違いとして挙げていた「差し回数、差し方」(東京製綱「玉掛け用」ページ)は、この条のことです。

圧縮止めについて教材は、加工時の圧縮力の不足等で製品にばらつきが出るため、製造者(専門工場)の表示のあるものを使うようにしなければならないとしています(教材 p.43)。

作業開始前の点検は第220条の義務

第220条第1項は、玉掛用具であるワイヤロープ等を用いて玉掛けの作業を行うときは、その日の作業を開始する前に異常の有無について点検を行わなければならないとし、第2項で、異常を認めたときは直ちに補修しなければならないと定めています(クレーン等安全規則 第220条)。教材が挙げるワイヤロープの点検項目は次の5つです(教材 p.59)。

  • 素線の切断
  • 直径の減少、摩耗
  • キンク、形崩れ
  • 腐食
  • 継ぎ箇所、端末処理部の異常

点検の具体的な見方や、ワイヤー以外の玉掛用具も含めた確認の進め方は、玉掛けとは何かと用具の点検を解説した記事で扱っています。

キンクと型崩れのワイヤーが切れた災害事例

厚生労働省の職場のあんぜんサイトには、建築用H鋼を天井クレーンでつり上げて移動中に玉掛け用ワイヤロープが切断し、H鋼の近くで様子を見ていた作業者が落下したH鋼の下敷きになった事例が載っています。荷を約2mの高さまでつり上げたところで切断し、被災者は休業2ヶ月の重傷を負いました(職場のあんぜんサイト 労働災害事例 No.101221)。

切断したワイヤロープにはキンクと型崩れがあり、定期的な点検も作業開始前の点検も行われていませんでした。原因には、点検せずにキンクや型崩れのあるワイヤロープを使ったことと、前の作業では「2本・4点つり」だったのに「1本・2点つり」という不安定な方法で玉掛けをしたことの2つが並んでいます(職場のあんぜんサイト 労働災害事例 No.101221)。

正直なところ、この事例の原因に挙がった2つ、つまり第215条三号が使用を禁じているキンクのあるワイヤーが第220条の作業開始前点検を経ないまま使われていたことと、1本2点つりという不安定な掛け方は、どちらもこの記事で見てきた規定と注意書きにつながっています。

玉掛けワイヤーに関する情報まとめ

  • 玉掛けワイヤーとは:荷をつるための玉掛用具のワイヤロープ。構成記号・より方・G種とA種を見分け、径は3方向の平均で測る
  • 何トンつれるか:表は「破断荷重÷6→本数→つり角度」の3段で作られ、前提とセットで読む
  • 本数とつり角度:張力係数のぶん割り引かれる。4本つりは2本の2倍までで、均等でなければ3本つりの扱いがより安全
  • 4分・5分:実用値は12mm・16mm。単位の説明は資料で割れている
  • 使ってはいけないワイヤー:第215条一〜四号が法令の線で、JISや教材の基準は別に重ねて見る

以上が玉掛けワイヤーに関する情報のまとめです。

玉掛けワイヤーは、荷の質量・つり角度・ロープの種別・ワイヤーの状態がそろって初めて表の数字が使える道具です。段取りでは、荷の質量を出し、つり角度を決め、種別に合った表で径を選び、作業開始前点検で第215条の4項目を見る、の順で確かめます。個人的には、早見表を現場に持ち込むときに、表の前提5つも一緒に書き添えておくのがいちばん効く一手だと思います。材料にかかる力の考え方を補うなら、引張荷重の基本を整理した記事があわせて読みやすいです。

5分のワイヤーで何トンつれる?

5分は現場の慣用的な呼び方で、16mmを指します(太陽精機「もえろ!タマカケ魂」よくある悩み)。東京製綱の安全荷重表では、16mmの2本つり60°は3.6tfです。これは6×24 A種・安全率6・2本に荷重が均等にかかる前提の値なので、種別や前提が違うロープでは使えません(東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7)。

安全係数6を守る義務があるのは誰?

クレーン等安全規則第213条の主語は「事業者」です。事業者は、玉掛用具であるワイヤロープの安全係数が6以上でなければ使用してはならない、という形で定められています(クレーン等安全規則 第213条)。

4本つりは1本の4倍つれる?

4倍にはなりません。教材は4本4点つりの安全荷重を2本2点つりの2倍としていて、東京製綱の表でも4本つり60°は1本・垂直の値の3.4倍(3.4A)です。しかもこれは4本に荷重が均等にかかる前提で、均等に掛かりにくい場合は3本つりのモード係数を使うほうがより安全とされています(教材 p.41/東京製綱 トヨロック玉掛索カタログ p.7)。

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