- 仮想仕事の原理ってどういう意味?
- 「仮想」って何が仮想なの?
- 公式とその意味は?
- 単位仮想力法ってどう使うの?
- 例題でたわみを計算する流れは?
- たわみ角法やエネルギー法とどう違うの?
上記の様な悩みを解決します。
「仮想仕事の原理」は構造力学の中でもエネルギー法と呼ばれる解法系統の出発点で、梁・トラス・フレームのたわみ・回転角を求める時に強力な道具です。「仮想の力をかけたときの仕事と、内部のひずみエネルギーが釣り合う」という直感的でない式が出てくるので、初学者は手こずるところ。本記事では公式の意味から単位仮想力法、典型例題、エネルギー法の中の位置付けまで、若手向けに整理しておきます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
仮想仕事の原理とは?
仮想仕事の原理とは、結論「実際の構造物に対して、仮想の力(または変位)を考えたときに、外力の仕事と内力(応力)のする仕事が釣り合う」という法則です。
英語では Principle of Virtual Work。実際にかかっている荷重とは別に、計算用の『仮想の力』を考えて、その力に対するエネルギーバランスを式にする、という発想で、たわみ・回転角を求める計算を一気に簡単にする道具として19世紀から使われてきました。
仮想仕事の原理のざっくりイメージ
- 構造物を「力を加えたら変形する系」と捉える
- 「実際の荷重」の他に「仮想の単位荷重」を別に考える
- 仮想の荷重に対する外力の仕事 = 内力(応力)の仕事
- たわみ・回転角を積分計算で求められる
「仮想の単位荷重を持ち込むことで、未知のたわみを式の中から取り出せる」のがこの原理の魅力です。
構造力学全体の中での位置付けはこちらでも整理しています。

公式と意味
最も基本的な形を整理します。
仮想仕事の原理の基本式
連続体(梁・骨組)に対する基本式は以下の通りです。
δW_external = δU_internal
- δW_external:外力が仮想変位に対してする仕事(外力仮想仕事)
- δU_internal:内力(応力)が仮想ひずみに対してする仕事(内力仮想仕事)
この「外で行われる仕事 = 内で吸収される仕事」というエネルギー保存則を式にしたものが、仮想仕事の原理です。
梁の場合の具体的な式
梁のたわみ δ を求める場合、単位仮想力法を使うと以下の積分式になります。
δ = ∫ (M × m / EI) dx
- δ:求めたいたわみ
- M:実際の荷重による曲げモーメント分布
- m:仮想の単位荷重による曲げモーメント分布
- E:ヤング率
- I:断面二次モーメント
- 積分範囲:梁全長
「実際のM × 仮想のm ÷ EI を全長にわたって積分する**」と覚えれば計算できます。
「仮想」って何が仮想なのか
教科書で混乱しがちな「仮想」という言葉ですが、
- 実際にはかけていないが、計算上だけ存在する力(または変位)
- 値は1(単位値)を使うのが定番(単位仮想力法)
- 仮想力はたわみを求めたい点に集中荷重として与える
「実際の物理現象」ではなく「計算用のツール」として仮想の力を持ち込むのが、この原理の本質です。
ヤング率と断面二次モーメントの意味
公式の中の EI は梁の曲げ剛性を表します。
- E(ヤング率):材料が硬いほど大きい
- I(断面二次モーメント):断面が大きい・外側に偏っているほど大きい
「EI が大きい梁ほどたわみにくい」のは直感的にも納得できる関係です。
ヤング率・断面二次モーメントの話はこちらでも整理しています。

仕事と仮想仕事の違い
混同されやすい言葉なので、整理しておきます。
「仕事」の物理的意味
物理学で仕事とは「力 × 変位」のこと。
- W = F × δ(力 × 変位)
- 単位は J(ジュール)= N·m
- 力と変位が同じ方向なら正
例:1Nの力で1m動かす → 1Jの仕事が行われる。
「仮想仕事」とは
「仮想仕事」は、
- 実在する変位に対して、
- 仮想の力がする仕事(または逆)
- 単位は同じく N·m
- 計算上のツールとして存在
物理的に何かが起きているわけではなく、式の上で外力と内力のつり合いを表現するための言葉として使われます。
仮想変位と仮想力
仮想仕事の原理には2つのバリエーションがあります。
- 仮想変位の原理:実在の力に対して、仮想の変位を考える
- 仮想力の原理(単位仮想力法):実在の変位に対して、仮想の力を考える
実務でたわみを求める場合は仮想力の原理(単位仮想力法)を使うのが定番。本記事もこちらが中心です。
単位仮想力法によるたわみ計算
最も実用的な使い方を、手順ベースで整理します。
手順1:実際の荷重に対するM図を描く
まず、実際にかかっている荷重に対して曲げモーメント図(M図)を描きます。
例:単純梁(全長 L)、中央に集中荷重 P(下向き)
→ 中央で M_max = PL/4、左右の端でゼロ
M図の書き方はこちらでも整理しています。

手順2:たわみを求めたい点に仮想単位荷重を置く
たわみを求めたい点(例:中央)に、1Nの仮想集中荷重(下向き)をかけます。実際の荷重とは別に、独立した荷重ケースとして扱います。
手順3:仮想荷重に対するm図を描く
仮想単位荷重に対する仮想M図(m図)を描きます。
→ 中央で m_max = (1×L)/4 = L/4、左右の端でゼロ
手順4:M × m / EI を積分
公式 δ = ∫ (M × m / EI) dx を計算します。
例:単純梁・中央集中荷重 P の場合、
- 左半分の区間(0 ≤ x ≤ L/2):M = (P/2)x、m = (1/2)x
- M × m = (P/4)x²
- ∫(0 to L/2) (P/4)x² dx = (P/4) × (L/2)³/3 = PL³/96
- 右半分も同じく PL³/96
- 合計 = PL³/48
- δ = PL³/(48 × EI)
公式に当てはめると δ = PL³/(48EI) が出てきます。教科書で梁のたわみ公式として出てくる形そのものです。
手順5:単位の整合確認
たわみの単位は mm(または m)。
- M、m の単位:N·mm(曲げモーメント)
- E の単位:N/mm²
- I の単位:mm⁴
- 積分範囲(dx):mm
→ M·m·dx / (E·I) = (N·mm × N·mm × mm) / (N/mm² × mm⁴) = mm
単位の整合性で計算ミスをチェックできるのも、エネルギー法の良いところです。
典型例題
定番のパターンで、もう一つ計算してみます。
例題:片持ち梁+先端集中荷重
- 全長 L、左端固定、右端自由
- 右端に集中荷重 P(下向き)
- 求めるもの:右端のたわみ δ
手順
- 実際の荷重に対するM図:x の関数で M(x) = −P × (L − x) → 固定端で −PL、自由端でゼロ
- 右端に仮想単位荷重を置く
- 仮想M図:m(x) = −1 × (L − x)
- 公式に代入:
δ = ∫ M × m / EI dx = ∫(0 to L) [(−P(L−x)) × (−(L−x))] / EI dx = (P/EI) × ∫(L−x)² dx
= (P/EI) × [(L−x)³ × (−1/3)]_0^L = (P/EI) × [0 − (−L³/3)] = PL³/(3EI)
教科書の公式 δ = PL³/(3EI) がそのまま出てきます。
例題のポイント
- 仮想力法は任意の点のたわみを直接出せる
- 単純梁・連続梁・トラス・骨組などに広く適用できる
- 不静定構造でも応用可能(重要)
不静定構造の話はこちらでも整理しています。
エネルギー法の他系統との比較
仮想仕事の原理はエネルギー法と呼ばれる解法群の一員。他の系統と整理して比較します。
エネルギー法の主な系統
| 解法 | 概要 | 用途 |
|---|---|---|
| 仮想仕事の原理(仮想力法) | 仮想単位力 × M図の積分 | たわみ・回転角の計算 |
| カスティリアノの定理 | ひずみエネルギーの偏微分 | たわみ・回転角の計算 |
| 最小仕事の原理 | 不静定力に関する偏微分=0 | 不静定構造の解法 |
| マックスウェル相反定理 | 仕事の対称性 | 影響線・計算検算 |
「仮想仕事の原理が一番基本、他は派生形」と整理できます。
たわみ角法・モーメント分配法との違い
エネルギー法ではないが、不静定構造を解くために古典的に使われる方法。
- たわみ角法:節点回転角を未知数として連立方程式を解く
- モーメント分配法(固定法):分配率・伝達率を順次更新
これらは力のつり合い系の解法で、エネルギー法とは別系統。たわみそのものを求めるなら仮想仕事の原理が直接的で、不静定の応力分布を求めるならたわみ角法が直接的、という使い分けです。
たわみ角法はこちらでも整理しています。

現代の構造解析での位置付け
現代の構造解析はFEM(有限要素法)でコンピューター解析するのが標準。手計算で仮想仕事の原理を使う場面は減りました。ただし:
- FEMの理論的基礎はまさに仮想仕事の原理
- 試験勉強・概念理解では今も中核
- 簡易な梁・トラスの手計算では今も最速の方法
- 構造担当との会話で「ひずみエネルギーが…」という会話に追いつける
「理論として知っておく価値が高い」というのが、現代におけるこの原理の存在意義です。
一級建築士試験での出題
一級建築士試験では構造力学の出題範囲にエネルギー法が含まれ、仮想仕事の原理・カスティリアノの定理ともに出題例があります。
- 単純梁・片持ち梁のたわみ計算
- 簡単なトラスの伸び計算
- 不静定はり・骨組への応用
問題のパターンが固定的なので、典型例題を3〜5題こなせば十分対応可能な分野です。
仮想仕事の原理に関する情報まとめ
- 仮想仕事の原理とは:実構造に仮想の力(または変位)を考え、外力仮想仕事=内力仮想仕事のエネルギーバランスから変位を求める法則
- 基本式:δ = ∫ (M × m / EI) dx(梁のたわみの場合)
- 「仮想」の意味:計算上のツールとして存在する力(または変位)。単位値1を使うのが定番
- 計算手順:実際のM → 仮想単位荷重 → 仮想m → 積分
- 典型例題:単純梁中央集中(PL³/48EI)、片持ち梁先端集中(PL³/3EI)
- エネルギー法の中の位置:仮想仕事の原理が基本、カスティリアノ・最小仕事は派生
- 現代の意義:FEMの理論的基礎、試験勉強・構造担当との会話で必要
以上が仮想仕事の原理に関する情報のまとめです。
仮想仕事の原理は「仮想の力を持ち込んで、たわみを式の中から取り出す」という、最初は不思議に感じる発想ですが、FEMをはじめ現代構造解析の理論的基礎になっている強力な道具です。「M × m / EI を積分すれば任意点のたわみが出る」という1本の公式で、構造力学のたわみ計算問題が一気にシンプルになります。一級建築士試験対策としても、構造担当との会話のためにも、エネルギー法の系譜の中で押さえておきたい1本です。
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