- 図面に「ピット」って書いてあるけど、どこのことを指してるの?
- 地下ピットって何のためにあるの?ただの空間じゃないの?
- ピットの深さって何で決まる?1,200mmって数字をよく聞くけど根拠は?
- 排水ピットと釜場って同じもの?
- 電気屋さんが言う「ピット」と設備屋さんが言う「ピット」が噛み合わない
- 溶接検査で「ピットが出てる」と言われたけど、それも同じ言葉?
- 点検口の大きさや位置ってどう決めればいい?
- ピット内で作業するとき、何に気をつければいいのか分かっていない
上記の様な悩みを解決します。
ピットは、分野によって指すものがまったく変わる用語です。建築では床下に設ける箱状の空間、設備では配管や排水をためる場所、電気ではケーブルを通す溝、溶接では表面に開いた欠陥を指します。同じ現場で違う職種が「ピット」と言っているのに、実は別のものを話しているという行き違いが起きやすい言葉です。今回は分野ごとの意味、深さと有効高さ、点検口といった基本を押さえた上で、用語解説の記事では触れられにくい「ピットが閉鎖空間であることの危険」まで、施工管理の目線で整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、職種をまたいだ調整をこれから覚える方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
ピットとは?分野ごとに意味が変わる
ピット(pit)は英語で「穴」「くぼみ」を意味します。建設の現場では、この語がそれぞれの分野で別々のものを指すようになりました。
| 分野 | 指すもの | 目的 |
|---|---|---|
| 建築 | 床下・地下に設ける箱状の空間 | 配管の敷設、点検、湿気対策 |
| 給排水設備 | 排水をためる槽・くぼみ | 排水の集約、ポンプアップ |
| 電気設備 | ケーブルを通す溝・箱 | 幹線ケーブルの敷設と分岐 |
| 昇降機 | 最下階床面からカゴ底面までの空間 | 緩衝装置の設置、保守 |
| 溶接 | 溶接表面に開口した気孔 | ※欠陥の名称。設備ではない |
| 土木 | 掘削した穴・作業坑 | 施工上の作業空間 |
打ち合わせで最初に確認すべきは「どのピットの話か」です。特に建築の地下ピットと電気のケーブルピットは、図面上で同じ「PIT」と表記されることがあり、そのまま話が進むと配管ルートの調整で衝突します。
以下では実務で登場する頻度の高い順に、それぞれを見ていきます。
建築の地下ピット(二重スラブ)
建築でピットといえば、最下階の床を二重にして、その間にできる空間を指すのが一般的です。この構造を二重スラブと呼びます。
二重スラブにする目的は主に3つです。
- **設備配管を通す**:床下に配管を集約し、将来の更新をしやすくする
- **地中からの湿気を切る**:土に接する下スラブと居室の上スラブを離す
- **構造上の要求に応える**:基礎梁の成が大きい場合に、その間の空間を有効に使う
3つ目は見落とされがちですが実務的には重要です。基礎梁が深くなると、どのみち床下に空間ができます。それを埋め戻すよりピットとして使うほうが合理的、という判断で二重スラブになっている建物も多くあります。
ピットは構造体の一部として扱われるので、後から勝手に貫通させることはできません。設備の貫通位置は構造図と設備図を突き合わせて事前に確定させる必要があります。スラブそのものの考え方は別記事で整理しています。

ピットの深さと有効高さの決まり方
「ピットの深さは何mmにすればよいか」という問いには、単独の答えがありません。深さは次の3つの要求のうち、いちばん厳しいものが決めます。
**① 人が入って作業できる高さ**
点検や配管更新のために人が入るのであれば、梁下の有効高さが必要です。実務では梁下1,200mm以上を確保する考え方が広く使われています。これは「かがんで移動でき、工具を使った作業ができる」下限としての目安です。作業内容によっては1,400mmや1,800mmが求められることもあります。
注意したいのは、この寸法が**スラブ間の距離ではなく梁下の寸法**だという点です。基礎梁が下がってくる位置で有効高さが決まるので、梁成を確認せずにスラブ間だけで計画すると、梁下でくぐれなくなります。
**② 排水管の勾配を成立させる深さ**
排水は自然流下なので、管径に応じた勾配が必要です。管が長いほど、始点と終点の高低差が大きくなり、その差を飲み込めるだけの深さが要ります。
たとえば1/100の勾配で20m引けば、それだけで200mmの落差が発生します。ここに管径と保温厚、支持金物の寸法が加わるので、実際の必要高さはさらに増えます。排水勾配の基準値は別記事で整理しています。

**③ 設備機器の据付寸法**
ポンプ、受水槽、免震装置などをピット内に納める場合は、その機器の寸法とメンテナンススペースが深さを決めます。
この3つを個別に検討して、最大値を採用するのが正しい順序です。「とりあえず1,200mm」で決めてしまうと、②の勾配が成立せずに後戻りするケースが起きます。
排水ピットと釜場の違い
排水ピットは、排水を一時的にためて、ポンプで上階の排水系統へ送るための槽です。地下階の排水は重力では外部に出せないため、いったんためて汲み上げる必要があります。
似た言葉に「釜場」があります。釜場は、掘削工事中に湧いてきた水や雨水を1か所に集めて排水するための、仮設のくぼみです。
| 排水ピット | 釜場 | |
|---|---|---|
| 性格 | 本設の設備 | 仮設 |
| 目的 | 建物運用中の排水集約 | 工事中の湧水・雨水排除 |
| 期間 | 建物の寿命まで | 掘削〜床付けまで |
工事中の会話で「ピット」と言ったとき、土工事の職長は釜場を、設備の職長は排水ピットを思い浮かべていることがあります。工程の話をするときは、どちらの話かを明示してください。
排水ピットで管理が要るのは、油脂分や固形物の堆積です。堆積が進むとポンプが詰まり、悪臭と溢水につながります。竣工後の維持管理を考えるなら、清掃のしやすい形状と、点検口の位置を設計段階で押さえておく必要があります。
電気設備のピットとケーブルの通し方
電気設備でピットと言う場合は、幹線ケーブルを通すための溝や箱を指します。電気室から各所へ太い幹線を引くとき、天井内やラックだけでは処理しきれないため、床下に経路を確保します。
電気のピットで押さえるべき点は次のとおりです。
- **他設備との交差**:給排水管とケーブルが同じピットを通ると、漏水時にケーブルが浸かる
- **離隔**:発熱する幹線同士を密集させない
- **屈曲半径**:ケーブルには許容曲げ半径があり、直角に曲げられない
- **蓋の耐荷重**:通行部に設ける蓋は、人荷重か車両荷重かで仕様が変わる
実務で衝突が起きやすいのは1つ目です。給排水と電気が同じピットを共用する計画になっているとき、配管の下にケーブルを通すのか、上に通すのかで揉めます。原則は電気を上、水を下にして、漏水時にケーブルが被水しない配置にします。
溶接の「ピット」は欠陥の名前
ここだけまったく別の話です。溶接でピットと言えば、溶接金属の表面に開口した小さな穴のことを指します。設備のピットとは何の関係もありません。
溶接中に発生したガスが、金属が固まる前に抜けきらず、表面に開口したまま残ったものです。表面に出ずに内部に残ったものはブローホールと呼ばれ、区別されます。
主な原因は次のとおりです。
- 開先やその周辺の水分・油分・錆
- 溶接棒の吸湿
- シールドガスの不足や風による乱れ
- 電流・速度など溶接条件の不適合
外観検査で見つかる欠陥なので、現場では発見しやすい部類です。ただし表面に1つ見えているとき、内部にブローホールが残っている可能性も考える必要があります。溶接欠陥の全体像は別記事で整理しています。

ピットの点検口と入るときの安全
ピットは人が入る空間なので、出入口と換気の計画が要ります。
点検口・人通孔で押さえる点は次のとおりです。
- **大きさ**:人が工具を持って出入りできる寸法を確保する。600mm角程度では通れない体格の作業員がいる
- **位置**:ピットの端部だけでなく、行き止まりができない配置にする
- **梁の人通孔**:基礎梁で区画が分断されるので、梁にも通り抜けの開口が要る。構造上の補強と位置は構造設計者の確認が必要
- **蓋の仕様**:常時開放しないので、施錠や墜落防止の措置を決めておく
そして最も重要なのが酸欠対策です。ピットは閉鎖空間で、空気が滞留します。鉄部の錆による酸素消費、地下からのガス滞留、塗装や接着剤の溶剤蒸発など、酸素濃度が下がる要因が揃っています。
入る前には必ず酸素濃度と有害ガスの測定を行い、換気を確保してください。「短時間だから」「前回は大丈夫だったから」で入るのが最も危険なパターンです。監視人を配置し、単独で入らせないことも原則です。
竣工後の維持管理でも同じことが起きます。設計段階で換気経路を確保しておくことが、将来の事故を減らします。
ピットに関する情報まとめ
- ピットとは:分野ごとに意味が変わる。建築は床下の空間、設備は排水槽、電気はケーブル経路、溶接は表面欠陥
- 地下ピット:最下階の床を二重にした二重スラブ。配管敷設・防湿・基礎梁との関係で成立する
- 深さと有効高さ:作業高さ・排水勾配・機器寸法の3つのうち最も厳しいものが決める。梁下1,200mm以上が作業高さの目安
- 排水ピットと釜場:排水ピットは本設の設備、釜場は掘削中の仮設。工程の会話では区別する
- 電気のピット:給排水と共用するときは電気を上、水を下。屈曲半径と蓋の耐荷重も要確認
- 溶接のピット:表面に開口した気孔。内部に残ったブローホールとは区別する
- 点検口と安全:人通孔の位置と寸法を設計段階で確定。入る前の酸素濃度測定と換気、監視人の配置は必須
以上がピットに関する情報のまとめです。
ピットで起きるトラブルの多くは、言葉の行き違いか、深さの決め方の順序を間違えたことに起因します。打ち合わせの冒頭で「どのピットの話か」を揃え、深さは作業高さ・排水勾配・機器寸法の3つを個別に検討してから最大値を採る。この2つを習慣にしておけば、後戻りの大半は防げるはずです。そして人が入る空間である以上、酸欠対策だけは段取りより先に決めておいてください。


